M's last diary

自分について知っているニ三の事柄

少年の日の自分に負けない

高層ビルの下を歩いてたら、前を行く人たちがある地点に来ると進路を急に変える。

何だろうと思って、その地点まで来ると、道の真ん中にネズミの死骸が……。

思わずそれをよけて通り過ぎた。

数歩過ぎたところで立ち止まった。

少年の日の記憶がフラッシュバックする。

 

小学校の頃、学校帰りに野良猫と出会った。

勝手にチコと名前を付けた。

いつも同じ所をところをうろついていた。

友達と一緒に給食の残りをあげたりした。

ある日、チコは道の真ん中で死んでいた。

車か何かに轢かれたようだ。

怖くて誰もその死体には近づけなかった。

一度家に帰ったが、気になって仕方ない。

引き返してみると、死体はまだ道の真ん中に横たわっていた。

勇気を振り絞ってそれを抱えると、近くの林の木の下に移した。

 

あの日の、少年だった自分に負けてはいけない……。

そう思って、引き返した。

道の真ん中に横たわるネズミを手に取って、近くの生垣に移した。

外から見えないように枝の下に横たえた。

 

少年だった日の自分に負けてはいけない……。

 

 

 

 

 

バースデイライブ

バースデイライブをやった。

ほぼ満席。

思ったよりも多くの人が来てくれたのは嬉しかったが、複雑な思いもある。

「元気ですね」と言われたり、「あと10年は大丈夫だよ」などと励まされたりする。

それはそれで有難いのだが、その言葉の裏側には、「もうそろそろ終わりに近い」という前提があるのだ。

勿論、それは自分自身も感じている事なのだが……。

それでも日々、「今度はこんな事をやりたい」と心ひそかに思っている。

それを「気が若い」と言うのか?

それとも「自分を判っていない」と言うのか?

もしくは「空気を読めていない」と言うのか?

まだ心の奥には燻ぶった火があるのだろうか?

そんな事を自問自答する。

そんなバースデイだった。

 

ギターを弾くホームレス

ギターを弾くホームレスがいた。

珍しく、まだ若い男のようだった。

腰まである長い髪に、ニット帽をかぶっていた。

最初の頃は毎日の様に弾いていたが、

次第に弾かずに寝ている事が多くなった。

 

ある晴れた日、久しぶりに彼のギターが聞こえた。

別に上手い訳ではない。

ガチャガチャとコードをかき鳴らすだけだ。

時折、鼻歌の様な物が混じるが、よく聞き取れない。

もう少し大きな声で唄ってくれれば、立ち止まって聞くのに……。

そんな風に思いながら、その前を通り過ぎた。

 

数日後、彼の姿は消えた。

ギターも、地面に敷いてあった段ボールや毛布、そして数少ない荷物も……。

全てが綺麗さっぱりなくなっていた。

立て札が立っていて、そこにはこう書かれていた。

路上美化運動委員会。

確かに路は綺麗になった。

ギターの音も消えた。

 

 

 

 

 

友達と仕事仲間

母の遺品を整理していたら、父が定年退職した時に会社の部下や同僚からもらった色紙が出て来た。

「先輩、また飲みましょう」「今度またゴルフに誘います」「たまには会社に顔を出して下さい」そんな言葉が書き込まれている。中には「不倫の相手はあたしで」などというドキッとするような書き込みもあった。

リップサービスという奴だろう。

その後、父が飲みに誘われた事も、ゴルフに誘われた事もなかった。

勿論、女子社員が訪ねてくることもなかった。

父は毎日退屈そうだった。

私は退屈しのぎにファミコンをプレゼントした。

父はテトリスにしばらくはまっていた。

「目が疲れる」と言ってやめてしまった。

次に一眼レフカメラをプレゼントした。

若いころに山が好きだった父は、カメラを持って山歩きに出かける様になった。

母も一緒に出掛けた。

私はホッとした。

 

よく判ったのは、仕事仲間は友達ではないという事。

定年後に新しい友達を作るのは難しいという事。

特に男は、年を取ると新しい友達を作るのが下手だ。

肝に銘じなければ……と思った。

 

壊れてないなら修理はするな

「壊れてないなら修理はするな」というのは確かイギリスのことわざだったと思う。

最初に耳にした時には意味が判らなかった。

よく考えると大きく頷く事ばかりだ。

「上手く行っている物事を、より上手くいく様に手直しすると、かえってダメにしてしまう事が多い」という意味だろうか。

確かにそういう事例は多い。

売れ行き好調の自動車が、「後部座席がもう少し広いと良いのに」という意見を聞いてデザインを少し変えたら、途端に売れなくなったとか……。

人間関係にも同様な事がある。

仲が良くて毎日の様にデートしているカップルが、「それなら一緒に暮らそう」と同居を始めたら、何故か破局してしまったとか……。

「こうしたら、もっと良くなる」という善意から来る行動が、何故か上手く機能しないのだ。

それでも人は、往々にして必要のない「修理」をしてしまう。

不思議なものである。

 

引っ越しは人生を変える

人生を変える最も簡単な方法は「引っ越し」である。

と誰かが言っていた。

大学を卒業して実家を出たのが四十年前。

その時から今までに7回引っ越しをしている。

確かにその度に大きな変化があった。

新しい生活があり、

新しい刺激があり、

新しい出会いがあった。

今、8回目の引っ越しを考えている。

これが最後の引っ越しになるかどうか……。

それはまだ判らないが、

期待に胸を膨らませているのは確かだ。

 

 

自分に縛られる

自由でいたいと思っても

いつも何かに縛られている

社会や世間のせいではなく

自分自身に縛られている

 

過去は忘れたと言いながら

昔の写真を捨てられない

楽しい思い出ばかりじゃないのに

昔の記憶に縛られている

 

誰かを欲しいと言いながら

人に会うのを恐れている

孤独は嫌だと言いながら

独りぼっちを愛している

 

そんな自分は嫌いだと

自己嫌悪に落ち込みながら

そんな自分を捨てられず

そんな自分を愛している