ギターを弾くホームレスがいた。
珍しく、まだ若い男のようだった。
腰まである長い髪に、ニット帽をかぶっていた。
最初の頃は毎日の様に弾いていたが、
次第に弾かずに寝ている事が多くなった。
ある晴れた日、久しぶりに彼のギターが聞こえた。
別に上手い訳ではない。
ガチャガチャとコードをかき鳴らすだけだ。
時折、鼻歌の様な物が混じるが、よく聞き取れない。
もう少し大きな声で唄ってくれれば、立ち止まって聞くのに……。
そんな風に思いながら、その前を通り過ぎた。
数日後、彼の姿は消えた。
ギターも、地面に敷いてあった段ボールや毛布、そして数少ない荷物も……。
全てが綺麗さっぱりなくなっていた。
立て札が立っていて、そこにはこう書かれていた。
路上美化運動委員会。
確かに路は綺麗になった。
ギターの音も消えた。